春待ち鮫 (復活)
自分の命の重さ、なんて。
自分じゃ無いに等しかったんだ。
もともと家は飛び出してきたせいで、何処かでの垂れ死のうが心配する親類などいねえ。強さを求める途中で死ぬのなら、それもまた仕方ないと思っていた。
勿論ただで死ぬ気なんてなくて、どんなに不利な状況でもあがくように勝利に喰らいついてきた。その結果命も拾っていた、けれどオマケみたいなもんだった。
自分にとって、自分の命は守るものじゃなかった。自分はどうしたって剣の道に生きたかったから、精一杯限界まで使って、その過程で擦りきれて壊れて失くしてしまうなら仕方ないものだと思っていた。
金色の同級生にうるさく命の尊さだとか、そんなものについて説かれたこともあったが、残念ながらその時も俺にはさっぱり理解ができなかったわけで。
命の尊さを軽んじているわけではない、と思う。
ただ、死線ギリギリの土壇場にばかりいてわからなくなってしまうのだ。
あと一歩間違っていたら、死という名の鎌で俺は首を刈り取られていただろうなんて経験は何度も俺の横を通りすぎていった。
よく生きてんなあ、と重い息をつくと同時にそれでもいつかはこうやってあっさりと死ぬのだろうと同じ頭で理解していたから。
だから、自分の命の重さなんて本当にわからなかったのだ。
ザンザスと出会ってからでさえ、それは変わらなかった。
そもそも一番デカイ死線を潜り抜けたのが、アイツの下に入り込む時だったし、アイツも俺の命をどうも思っていなかった。
当の俺だって、それまで剣の道に捧げてきた命をコイツが10代目になるためになら捧げてやってもいいか、と思っていたくらいだったので。
クーデターで散るなら、俺の方だと、なんの根拠もなく思っていた。
「………ザン…ザス…?」
まさか、あいつがいなくなって俺が生き残るなんて可能性は無くはなかった筈なのに、俺の頭の中からはすっぱりと抜け落ちていた。少なくとも、あいつが死ぬときは俺も生きてはいないだろうと思っていたのだ。
そして、その思い付きもしない程有り得ないと思っていた可能性はいま、現実として俺の目の前に横たわっていたのだった。
その時の俺の気持ちをどう表したらよかっただろう。
最初に、俺が思ったことは――これは何かの間違いだということだった。
だって、そうだろう。
なんで俺が、怪我もしているしボロボロだけど、ちゃんと呼吸をして二本の足でもってここにいるのに。なんで、目の前のこいつはこんな所に閉じ込められて動かないんだ?
軽かったのは、喪われてよかったのは俺の命の筈だったのに。
なあ、なんで。なんでこいつの方がこんな目に遭ってんだ。
ソイツは、そこにいていい命じゃない。もっと自分なんかより大事で、大きくてもっともっと価値があるものなのに。
ガラスのような、分厚く透明な塊の深く深くに押し込められていて、触れることすらかなわない。
もう、目覚めることはないと言われた。冷たい温度のない壁に阻まれて、生を全て拒絶するような無機質な凍りに覆われて、俺の一番大切なものはそこにある。
死んでしまいたかった。
大事なお前を守れなかった俺なんて。
嗚呼、でも。お前がもしも生きてて、戻ってくる日が来る可能性がひとかけらだってあるのなら俺が、ここで死ぬのは逃げなんだろう。
だから、俺は生きなきゃならない。
お前が戻ってくる日まで。
(俺のいのちが、重くなった日の話。)
自分じゃ無いに等しかったんだ。
もともと家は飛び出してきたせいで、何処かでの垂れ死のうが心配する親類などいねえ。強さを求める途中で死ぬのなら、それもまた仕方ないと思っていた。
勿論ただで死ぬ気なんてなくて、どんなに不利な状況でもあがくように勝利に喰らいついてきた。その結果命も拾っていた、けれどオマケみたいなもんだった。
自分にとって、自分の命は守るものじゃなかった。自分はどうしたって剣の道に生きたかったから、精一杯限界まで使って、その過程で擦りきれて壊れて失くしてしまうなら仕方ないものだと思っていた。
金色の同級生にうるさく命の尊さだとか、そんなものについて説かれたこともあったが、残念ながらその時も俺にはさっぱり理解ができなかったわけで。
命の尊さを軽んじているわけではない、と思う。
ただ、死線ギリギリの土壇場にばかりいてわからなくなってしまうのだ。
あと一歩間違っていたら、死という名の鎌で俺は首を刈り取られていただろうなんて経験は何度も俺の横を通りすぎていった。
よく生きてんなあ、と重い息をつくと同時にそれでもいつかはこうやってあっさりと死ぬのだろうと同じ頭で理解していたから。
だから、自分の命の重さなんて本当にわからなかったのだ。
ザンザスと出会ってからでさえ、それは変わらなかった。
そもそも一番デカイ死線を潜り抜けたのが、アイツの下に入り込む時だったし、アイツも俺の命をどうも思っていなかった。
当の俺だって、それまで剣の道に捧げてきた命をコイツが10代目になるためになら捧げてやってもいいか、と思っていたくらいだったので。
クーデターで散るなら、俺の方だと、なんの根拠もなく思っていた。
「………ザン…ザス…?」
まさか、あいつがいなくなって俺が生き残るなんて可能性は無くはなかった筈なのに、俺の頭の中からはすっぱりと抜け落ちていた。少なくとも、あいつが死ぬときは俺も生きてはいないだろうと思っていたのだ。
そして、その思い付きもしない程有り得ないと思っていた可能性はいま、現実として俺の目の前に横たわっていたのだった。
その時の俺の気持ちをどう表したらよかっただろう。
最初に、俺が思ったことは――これは何かの間違いだということだった。
だって、そうだろう。
なんで俺が、怪我もしているしボロボロだけど、ちゃんと呼吸をして二本の足でもってここにいるのに。なんで、目の前のこいつはこんな所に閉じ込められて動かないんだ?
軽かったのは、喪われてよかったのは俺の命の筈だったのに。
なあ、なんで。なんでこいつの方がこんな目に遭ってんだ。
ソイツは、そこにいていい命じゃない。もっと自分なんかより大事で、大きくてもっともっと価値があるものなのに。
ガラスのような、分厚く透明な塊の深く深くに押し込められていて、触れることすらかなわない。
もう、目覚めることはないと言われた。冷たい温度のない壁に阻まれて、生を全て拒絶するような無機質な凍りに覆われて、俺の一番大切なものはそこにある。
死んでしまいたかった。
大事なお前を守れなかった俺なんて。
嗚呼、でも。お前がもしも生きてて、戻ってくる日が来る可能性がひとかけらだってあるのなら俺が、ここで死ぬのは逃げなんだろう。
だから、俺は生きなきゃならない。
お前が戻ってくる日まで。
(俺のいのちが、重くなった日の話。)
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